【佐久不】クリスマスの話
「これはどういうつもりなんだよ?」
不動はクリスマス柄の紙袋を逆さにすると、佐久間の目の前にぶちまけた。
出てきたのは、マフラーと手袋。
佐久間は、不動の行動の意味がわからず、目を瞬かせた。
そして、少し間をおいた後、
「マフラーと手袋だと、見てわかんないのかよ?」と悪態をついた。
この人、頭悪いの?とでもいいたげだ。
「それくらい見ればわかるに決まってんだろ!
どうしてこんなもんを渡してきたのかってことを聞いてるに決まってんだろ!」
趣旨を理解してくれない佐久間に対して不動はそうほえた。
きっかけは今朝のことた。
不動が帝国学園にきて初めての冬。
明日から連休だ、クリスマスだと、はしゃぐ生徒たちに混じって、別にいつも通りの休みだろ、と浮つく気分にもなれず不動が登校をしている時。
普段から文句を言い合っている佐久間と不動は、お世辞にも仲が良いとは言えなかった。
大抵の場合、口論がヒートアップしてきた所で源田の仲裁が入り、漸く収束する。
なんとか友達であると言えるかもしれないのは、源田の存在があってこそだ。
そんな佐久間が、今朝、不動にこの紙袋を渡すと、そのまま何もコメントをせず去っていった。
何が入っているのかといぶかしんだ不動が、教室で恐る恐る開けてみたところ、先程の手袋とマフラーが入っており、ただただ面食らった。
中身はどうせ人を小馬鹿にするためのものが入っていると思っていたのに。
まるで100%の好意の塊であるかのようなシロモノに、どうしたいいのかわからなくなり、部活後のタイミングを見計らって、行動を起こしたのだった。
どこかにひっかけがあるに違いない。
佐久間はそんな不動の考えを見透かしてか、ニヤリと笑い、型にはまった優雅な動作で不動にマフラーを巻いてやる。
「お前見てるとこっちまで寒くなってくるからに決まってんだろ?
頭とか風通しよすぎじゃん?しまっとけよ」
くすくすと意地悪に笑いながら、帽子もかぶせてやる。
黒と濃い目の緑のニ色でできた揃いの帽子とマフラーはなかなかよく似合っていた。
第一あたたかい。
普段だったら、そのような挑発に簡単に乗る不動が、何も言わないのを不思議に思いつつ、佐久間は自分の見立てが間違っていなかったと自慢気に胸をはった。
「よく似合うだろ?」
部室のすみにかけてある鏡を指す。
確かに映る姿は悪くない、と不動は思った。
「まぁ……なぁ」
素直に認めるのは尺にさわるけど。
それ異常にマフラーも帽子も純粋にうれしかったので、複雑な心境だ。
不動の家があまり裕福でないことは、イナズマジャパンのメンバー内では暗黙の了解となっていた。
だから、初めは同情のつもりかとも思ったが、佐久間の雰囲気からそういうものではなさそうだということも理解できた。
……見てると寒そうというの理由は、腹が立つが。
「……ありがとな」
「げーっ、きもちわるっ。
急にしおらしくなんなよなぁ」
吐き気をこらえるような仕草をする佐久間に不動は遠慮がちに「なぁ」と呼びかけた。
顔が上がる。
目と目があう。
なんだよ、と佐久間の瞳がつげる。
「明日、23日さ、暇?」
駅から降りた瞬間に、昨日の気の迷いを不動は後悔した。
なぜ、あの時、不覚にも嬉しくて、俺も何かお返しにクリスマスプレゼントをあげなくては、などと思ったのだろうか。
それと同様の後悔を佐久間もしていた。
なぜ、行くなどと言ってしまったのか。
繁華街には人が溢れ、息苦しさえ覚えた。
それでも、何とかして店にと、言葉すくなくショッピングセンターに入ったが、その中は圧巻というより他がなかった。
「……なぁ、やめねぇ?」
佐久間は隙間なくうごめく人の波を見て、そういった。
すでに戦意は消失しており、早くも帰宅したい気持ちでいっぱいだ。
「ここなら何かあんだろ?
いくぞ!」
不動は半ばヤケになっており、嫌がる佐久間の手をとると、店内に突入していった。
人の流れに流されたり、逆らったり、正直者を見ることができるような環境ではなく、人くらいしか見るものがない。
……カップルばっかりだ。
よく見てみなくても、店内を歩く人は男女でカップルばかりだった。
仲良さそうに手を繋いでいる。
……手?
不動はその時、自分の右手が人とつながっていることに気づいた。
さっきまで、前に進むことしか考えていなかったため、ただはぐれないためだけにつないでいた手。
腕の先は佐久間につながっている。
「ん、だよ?」
急に歩みを止めた不動に不信な顔をする佐久間。
そして、その不動がじっと自分とつないでいる手を見ていることに気づく。
……なんで?
一度はそう疑問に思ったが、あたりを見渡した瞬間に、すべて理解した。
驚いた顔で、目と目がある。
丸く点になる目。
恥ずかしさから頬が赤くなった。
その瞬間、互いにつないでいた手を勢いよく離した。
「「っーー!!!」」
これは違うとか、変な勘違いすんな!とか、互いに何かをいいたかったが、うまく言葉にならない。
というか、口に出すことによって、そんなことを考えていたのかと思われるのがしゃくだった。
しばらく膠着状態で何も言えず、動くこともできずいたが、周りの人の波がそのままでいることをゆるさず、不動は後ろから押されてよろめいたことによって終了した。
「大丈夫か?」
「……お、おう」
どことなくぎこちない。
その後は、満場一致でここから外に出ることにした。
もちろん、手はつながずに。
「おー、佐久間に不動だ!
何してんだ?」
ちょうど建物から出た所で、声を書けられそっちを見るとそこにいたのは源田だった。
両手にいっぱいパーティーグッズを持っている。
「買い物だよ、みりゃわかんだろ」
二人して何の袋も持っていないので、見ただけではわからない、なんてツッコミは源田はしない。
「そういう源田は何してんだよ?」
不動がそう尋ねると誇らしげに荷物を掲げた。
「明日のクリスマスパーティーの準備だー!」
「おー、そういえば、明日、そんなこと言ってたな」
佐久間はうんうんと頷くと今度は不動の方を見た。
「不動も来るだろ?」
「なんで俺が?
休みの日までお前らとつるみたくねーし」
準備を嬉しそうにする源田にはさすがに聴かせることができなかったのか、小声になる。
不動は絶対に行かないという気持ちでいたが、同じく小声で
「どうせシングルベルでぼっちクリスマスなんだろ?
俺のクリスマスプレゼント、それでいいからさ!
源田喜ぶぜ?」
と、佐久間が言ったので、頷くしかなくなってしまった。
「げんだぁー!
不動も明日くるってさ」
「おー!そうか!
楽しみだなぁ」
「ボンバーマンやってさぁ、両端から挟んで不動爆発させようぜ!
マリカーで徹底的に攻めるのでもいいけどさぁ~。
楽しくなりそうだぜ!」
「佐久間のやることはえげつないからなぁ」
源田と佐久間が笑い合ってるのを見て、ホント、なんなんだよコイツらは、と不動は思っていた。
しかし、今まで一度も特別な日となったことのないクリスマスというイベントが急に色味を帯びてきたのは、事実だ。
そして、それが少しだけうれしいのも。
せわしない12月の人ごみの中を、3人で帰る。
といっても、佐久間と源田が前をどんどん歩いて行き、しかたなくという体裁で不動がついていっているような感じだったが。
途中、佐久間が振り返り、不動を見て満足気に微笑んだ。
「マフラーも帽子もよく似合ってるぜ」
ニシシと自慢気にもしている佐久間をみていると、不思議と心の中も暖かくなるような気がした。
「つけてる人がいいからにきまってんだろぉ?」