ヒロ晴ヒロ 「COSMIC BOX」
太陽が沈む瞬間の染めあがるだいだい。
ヒロトは足元の砂利をみていた。
昔とは違って大きくなった足、手、体。
そして、かわったのは体だけじゃなくて、役割も。
なんでかな?
空っぽなうつわみたいになった心で、ぼーっと考えていた。
「おいっ!やっぱりここにいたのか」
ヒロトの視界に黒い影が伸びて、その先を見上げる。
「晴矢」
「また、ここにいたのかよ。
お前さ、いい加減雷門中の視察にいって、落ち込むのやめろよ。
仮にも、ガイヤのキャプテンなんだからさ」
晴矢がけった小石が一つ、跳ねて、飛んで、ヒロトの靴に当たった。
「だから、誰にも見られないようにココに来てる」
小さな公園。
遊具もブランコとすべり台しかなくて、あるのは小さな砂場と空き地だけ。
「あー、もうっ、毎回探しに来るこっちの気持ちにもなってくれよ」
バーンは、ブランコに腰かけると、広がる空き地を見た。
「今みたいになる前さ、ここでみんなでサッカーしたよな」
「うん」
「あの時は、ゴールとか必殺技とかなくてさ、ただお前らとボールがあればよかった」
「うん」
目を閉じなくても思い出せる。
鮮明に。
晴矢がいて、風介がいて、僕がいた。
「お前をさ、サッカーに誘ったの、俺なんだぜ、覚えてるか?
いつも、ぼーっとしてて、うらやましそうにしてたからさ」
「覚えてる」
ヒロトと呼ばれて、片手が差し出されて、そのドロに汚れた手をとった。
『サッカーやろうぜ』
そういって、笑顔を浮かべた、その表情を忘れない。
「はじめトロかったのにさ、今やジェネシスだもんな。
あー、ホント、腹立つ」
晴矢は、ブランコを揺らして、勢いをつけて飛び降りると、
「帰ろうぜ」
といった。
先導するように歩き始めたが、ヒロトは続く気持ちに慣れなかった。
「……もう、戻れないのかな?」
あのチームを見に行くたびに思う。
みんな楽しそうだ。
「昔とは違うんだ。
無理だろ。
俺はプロミネンスのキャプテンだし、お前はガイヤのキャプテンだろ。
互いに競い合ってるのに、仲良くするとかおかしいだろ」
もう何度も聞いた言葉だった。
でも、何回きいても、胸の中がヒヤリとつめたくなる。
「……もし、僕がずっとサッカーがヘタなままだったら、今も仲良くできてたかな?
グランって、名前なんてなくてヒロトのままだったら……」
どんだけうまくなっても、どれだけ認められても、いつもどこかからっぽいなんだ。
「ヒロト、お前さぁ、なんだよ、それ、嫌味か?
……な、わけないよな。
ごめん」
晴矢はバツが悪そうに顔をかくと、ヒロトの近くまで歩み寄った。
「晴矢はさ、僕のこと、嫌いになった?」
「嫌いだったら、こんなとこまで迎えにこないだろ!」
ヒロトはじっとりと恨みがましい視線で晴矢を見つめた。
「どうせ、誰かに頼まれたから、来てるんだよね」
「な、わけあるかよ!
だったら、もっと他のやつに頼むよ」
なんで、こんな恥ずかしいこと言わなきゃならないんだってそう思いながら、晴矢は続ける。
「嫌いなわけじゃないだろ。
何年一緒にいると思ってるんだよ。
す、すきじゃなきゃ……!
もっと前に、どーでもよくなってるよ!」
「……はるやぁ」
飛びついて抱きしめたい衝動をぐっとこらえる。
「変な意味じゃないからな!
勘違いするなよ!
まったく、本当めんどくせーやつ!!
なんで、こんなこと言わなくちゃならないんだよ!」
晴矢はぶつぶつと文句を言うと、今度はさっきよりも少し強く「帰るぞ」と言った。
「手」
「ん?」
「手つないで帰ろうよ。
昔みたいにさ」
「はぁっ?!」
ヒロトは片手を差し出し、握り返されるのを待った。
「……お前、いくつだと思ってるんだよ」
「じゃなきゃ帰らない」
ヒロトが本気であるということが伝わり、晴矢は大きくため息を吐いた。
「はい、はい」
ぎゅっと、握る。
触れ合った手と手から、暖かくて幸せなものが流れてくるみたいだ。
ヒロトはそう思って、小さく微笑んだ。
並んだ影が前方に伸びる。
それはすごくすごく長くて
「これくらいさ、背が伸びても、こうして仲良くしてれるかな?」
「さぁな」
照れを含んだぶっきらぼうな返事が今は全然嫌じゃなかった。
晴矢。
ヒロトは心の中で名前を読んでみた。
名前を繰り返すたび、体の中心からゆっくりと暖かくなっていく。
「ヒロト、お前はさ、今が嫌だって言うけど、俺は今、こうなってよかったって思うぜ」
「えっ?」
「ただ遊んでたころはさ、強さとかそういうの関係なくて、ただそれだけだったけど、今は、強くなるってことが楽しい。
いろんな楽しさを知ったんだ。
そして、強くなるためにはもっと強いやつがいるだろ?
お前と俺と風介と3人いたから、ここまで強くなれた。
新しいことたくさん見つけることができたわけだ。
だからさ……」
晴矢が足を止めた。
「表面的なことじゃなくて……もっと、底のほうで俺たちはつながってる。
離れるわけないだろ」
「晴矢。
晴矢!
晴矢!!」
ぎゅっと、ぎゅっと抱きしめた。
「暑苦しいんだよっ!
誰かきたら、どうするんだよっ!!」
無理やり引き剥がそうとするのを、離されないようにさらにヒロトは力を込めた。
「だって、うれしかったから」
「場所、かんがえろよっ!」
顔のすぐ隣に晴矢の耳があったので、そこに向かってしゃべってみる。
「……なら、後から部屋にいく」
「ひんっ!?」
ザワザワッと鳥肌がたつ。
「耳元でしゃべんな!!
鳥肌たつだろ!」
「あっ、本当だ」
「わっ、あっ、ん。
指で、なぞんなっ!!」
渾身の力で引き離す。
なんだか、かわいいっと思って、ヒロトはクスクスと笑った。
「でも、後で行くね」
「お前、俺の部屋くると、なんだかんだ理由つけて、帰んないだろ!
次の日、眠たいんだよ……」
「だって一人で寝るのさみしいんだもん」
「本当に、図体ばっかりでかくなって、なんでいつまでも、そーいうとこ子供のまんまなんだよ」
晴矢がいるからだよ。
そう思ったけど、それがバレてしまったら、もう二度と受け止めてもらえない気がしたので、ヒロトはほほえむことでごまかした。
一度離れた手を探し出して、もう一度手を握った。
僕達の後ろには燃えるような夕焼け。
「晴矢」
「なんだよ」
「呼んでみただけ」
「あーっ、もう本当にうざいやつ……」
ぶつぶついう姿を見て、ヒロトはさっきの言葉を反芻した。
僕達は繋がっている。
たとえ、どんな所にいても、どんな立場になっても、一番底のところで繋がっている。
離れるわけがないんだ。
「晴矢」
「なんなんだよっ!?」
「大好きだよっ。
出会えてよかった」
ヒロトが今までみたこともない表情で笑うので、晴矢は息が詰まった。
こいつ、こんな表情できるんだな。
驚きと。
それが自分がいたからということがうれしいと思った。
そのまま言葉にはできないけど。
「ばか」
開いてる方の手で、ヒロトの頭を小突いた。
「俺もだよ」
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たしか、4月くらいに書いた話です。
バーンが韓国ででてくるなんて知らなかったんだもんっ!!
YUKIの「COSMIC BOX」を聞いてたら、夕暮れの公園で佇むヒロトの絵がでてきて、がぁあああー!っと新幹線の中で書き上げた話です///
グラバン好き