『手をつなぐ』 佐久間×鬼道
拝み倒して、鬼道さんと付き合ってみることになった。
一晩寝てみたけど、実感はわかない。
夜が来て、普通に寒くて、いつもと同じように学校に行く。
2月は寒く、コートのえりをぎゅっとしめた。
別に鬼道さんが俺のこと好きっていってるわけじゃないし、好きなのは自分だけだし。
昨日は変なスイッチが入ってて、畳み掛けるようにいろんなことがが口からでて、好きって言って、付き合ってくださいって言って、なんでって言われて、どうしてもっていって、やだっていわれたけど、そこをなんとか。
鬼道さんのあんな変な顔、はじめて見たな。
思い出してニヤニヤしてしまう。
朝の登校時は知り合いがまわりにたくさん歩いていて、こんな締りのない顔してるのなんて、絶対見られたくないな。
はやりだし、マスクしてこればよかった。
交渉の結果、付き合ってみることになったけど。
でも、これからどうしたらいいんだろ?
男と女で考えてみる。
……手とか繋いだりするんだろうか。
あーっ、本当にもう無理!
そんなことしたら、俺とけて死んじゃう。
でも、やっぱり、付き合うってそういうこと……だよな。
付き合うって……。
「やっぱり、マスクしてこればよかった」
心臓は今日、すごく調子よく動いてる。
手袋なんていらないくらい血がぐるぐる回ってる。
一応、今日の帰り一緒に帰る約束してるから、その時どんな顔したらいいのかな。
とりあえず、朝は会いたくないな。
トンっと肩に感覚。
「おはよう」
……死んだ。
……朝走って逃げたのはさすがにまずかったよなぁ。
鬼道さんと肩を並べてテクテク歩く。
会話が続かない。
日中はとにかく会わないように気をつけたし、部活中もあえて目をそらしたりして、本当になにやってるんだろう。
俺から話をもちかけて、とりつけて、で、自分で全部ダメにしてるって、どう考えても最低だ。
部活が終わって、どうしようか迷ってたら、鬼道さんが待ってた。
どんな顔すればいいんだろう。
何を話したらいいんだろう。
昨日まで普通にできていたことの一つ一つのやりかたをきれいに忘れてしまっていて、息だけ何度も吐いていた。
長く前に伸びた影だけは仲よさそうにくっついているのに。
「佐久間」
返事できない。
口あけて、何か言葉を、「うん」とかなんとか言おうとするけど、全然のどからでてこなくて、舌に触れた空気がただ冷たかった。
心臓だけはドキドキと休まない。
顔がみれない。
「付き合うって、何するんだ?」
「なにって……」
鬼道さんなりに気をつかってくれていて、何度も話題をだしてくれてるのがわかる。
それがうれしくて、口元がほころぶ。
あわててばれない様にそっぽを向いた。
「いや、こうやって一緒に帰ったりするくらいなら、前からもしていたし……。お前、今日一日変だろ。
そんなふうになるくらいなら、前の方がいいと思って」
慌てて鬼道さんの顔をみる。
「あの……俺……っ!」
何したらいいのかわかんなくって、
何話したらいいのかわかんなくって、
どんな顔したらいいのかもわかんなくって……!
うれしくって、
そして、大好きで。
そんな気持ちが体の中にいっぱいあって、どうしたらいいのかわからない。
きっと、今すごく変な顔をしてる。
鬼道さんはじっとこっちを見てる。
口をあける。
とにかく、何か言うんだ。
「自分でもよくわからなくて、何していいのか。
どんな顔していいのか……今、すごくおかしな顔してますよね」
自嘲気味な笑みがでた。
「だから、今日、避けてしまって、すみませんでした」
「いや、別に気にしてない」
そういってくれた時の顔がすごく優しくて、なんだか熱いものがこみ上げてきて、思わず涙でそうになったけど、いや、今泣くのは意味わかんないからと思って、ぐっと我慢した。
「手」
「ん?」
「手、繋いでいいですか?」
口がそういっていた。
「今まで通りはつらいからいやなんです。
だから、少し特別なことがしたい。
だから、手を……別にいやならいいんですけど」
出した手を引こうとしたら、つかまれた。
わーっ、わーっ、わぁー!
電気が流れたかと思った。
血が逆そうして耳まで赤くなってるのがわかる。
ビリビリする。
手つなぐとか、誰かと初めてするわけじゃないし、自分で自分の手をつかんだり、それと同じくらいのこと、なんでもないことのはずなのに、どうしてこんなに……鬼道さんは特別なんだろう。
ドクドクドクドクいそがしい。
「ほら、これでいいんだろ?」
「えっ、ん……はい」
まともに顔見れない。
絶対見れない。
今どうしようもない顔してる。
繋がってる左手に感覚が集中してる。
「さっきみたいな泣きそう顔されると、どうしたらいいのかわかんなくなる」
どれのことかわかんない、けど、そっか。
うなづく。
とりあえず、今、嬉しすぎて泣きそうだ。
大好きです。
好きです。
好き。
大好きなんです。
今、自分が思っているよりも、ずっとずっとずっと鬼道さんにとって特別な行為ではないということが少しだけ寂しいけど、それでもこうしていれることが、本当にうれしくって、ぎゅっと手を握った。
「鬼道さん、好きです」
「昨日、何度も聞いた。
俺にはその好きっていう気持ちがよくわらないが」
「ですよね。
でも……今、うれしくて死にそうです」
「死なれたら困る」
「……もったいないから、まだ死ねません。
明日も、こうしていいですか?」
「人がきたら、離すからな」
「はい!」
体あつい。
顔あつい。
繋いでる手、本当、あついよ。
前しか見えなくて、左にいる顔すごくみたいけど、恥ずかしくてやっぱり見えなくて、冬の冷たさがちょうどよかった。
途中、いろんなことを話したと思うけど、まるで記憶にない。
手繋いでから、ずっと、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
不意に手が離れる。
「また明日な」
いつも別れる交差点だ。
鬼道さんはいつもと同じように手をふった。
さっきまでの特別は終わってまた、同じような日常は戻ってきた。
「また明日」
それでも、左手の感覚は消えなくて、それどころか鮮明に思い出すことができて、手のあたたかさを忘れないように、ぎゅっと手を握った。
今日の夜、風呂に入る時は、左手、濡らさないようにしよう。
鬼道さん、大好きです。
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もしも付き合うことになったら、すべてにおいて佐久間てんぱるだろうな^^かわいい^^キタコレ。
と思ったら書いてた。
読んでるこっちが恥ずかしいわ!を目指したつもり