「帰り道」豪+風
「雨だ……」
授業中から降り始めた。
帰るころには止まないかと思っていた風丸の期待もむなしく、雨脚はいまだ変わらずにいた。
傘がない。
雨が降ると、部活も自主練となり、とくにやることもなかった。
おとなしく雨に降られて、まっすぐ帰るか。
億劫な気持ちで、学校の昇降口を出ようとした。
「風丸?」
ふと、呼び止められて、振り返る。
「豪炎寺」
「今、帰りか?」
「あぁ」
豪炎寺の手には、大人用の大きな傘が握られていた。
「途中までになるが、入ってくか?」
「助かる」
家の方向は、同じだけど、風丸の家の方が遠いので、あまり意味はないかもしれないが、それでも、全部ぬれて帰るよりはましだ。
肩をならべて歩き出す。
いくら、大きな傘といっても、一人用だ。
相手の肩口が濡れ、風丸は申し訳ない気持ちになったが、豪炎寺が気にしているそぶりはなかった。
とくに会話もない。
傘をたたく雨音が、耳に心地よいだけ。
自分も、おしゃべりなほうではないし、会話がないのは逆にありがたいくらいだ。
一緒にいて、苦痛じゃない。
そういえば、いつも円堂から、豪炎寺のことをよく聞くけど、それ以外はこいつのことを何もしらないな、と思った。
家族構成も、前の学校のことも、何が好きだとか、何が嫌いだとか、そういうことも、まったく知らない。
知ってるのは、サッカーがうまいってことくらいだ。
何考えて生きてるのかな。
足元で、雨粒がぴちゃぴちゃはねる。
そして、たぶん相手も俺のことを知らない。
俺たちは、ただのチームメイトだ。
「あっ」
鼻先をいいにおいがくすぐった。
ラーメンのにおいだ。
すでに行き着けになっている雷々軒。
何もいわずに、足が止まり、目があった。
「腹、減ったな」
「そうだな」
「何か食ってくか」
「あぁ」
いつもカウンターに座り、いつものラーメンを頼む。
ラーメンはいつもおいしい。
「風丸」
「なんだ?」
ラーメンの蒸気越しに、豪炎寺を見る。
「……最近、どうだ?」
質問の意図がわからない。
風丸は眉間にしわを寄せて、豪炎寺を見返した。
「どういう意味だ?」
豪炎寺は、悟られないように、本当に、ほんの一瞬だけしまったという顔をした。
「なんでもない」
そして、早足にラーメンをすする。
あっ。
わかってしまった。
なんだ、こいつなりに。
心情を考えると、面白くなってしまって、口元がほころぶ。
「別に、気を使って、話す必要はないよ」
一瞬、ペースが乱れたので、図星だったとみる。
なんだ、こいついいやつだ。
「そういう豪炎寺はどうなんだ?最近」
「サッカー、楽しい」
だろうな。
「俺もだ」
ラーメンはおいしい。
「そういえば、帰り際に俺の家、よっていけよ。
傘くらい、貸してやる」
「ん、助かる」
ラーメンをすする音だけが聞こえる。
こんな日も悪くないなと思った。
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カプとか、そういうことじゃなくて、この二人のコンビが好きです!
無印見返してると、じわじわじわっときちゃう!