『桜並木』 豪炎寺×鬼道
朝、目がさめたら突き抜けるような晴天で、とても気分がよかったので、散歩することにした。
家をでて、すぐに鬼道有人は、散歩の目的を思いつく。
雷門中のそばに有名な桜の名所があったはずだ。
風はつめたかったが、日差しはあたたかい。
春の陽気が頬をぬけて、髪を揺らした。
川沿いに並ぶ見事なまでの桜並木は、一斉に春の訪れを告げ、その色を桃色に変えていた。
はっと、息をのむ。
ひらひらと少しずつ散っていく花びらがきれいだ。
しかし、春の象徴を見た新鮮な驚きはすぐにごったがえす人の波によって消える。
ブルーシートをひき、楽しげに騒ぐ人、人、人。
両端に立ち並ぶ屋台。
その中央を通るこれまた多くの人。
人ごみっは苦手だが、年相応にその光景に胸が弾んだ。
いいにおい。
たのしげな声。
縁日ならではの、もの、人、風景。
そして、その背景には、美しい桜並木。
心を躍らせるには十分だった。
チョコバナナとりんご飴を買って、片方は手に、片方を腕にぶらさげて歩く。
屋台はまだ先へと続いている。
柄にもなく口元をほころばせる鬼道の腕を誰かがつかんだ。
慌てて表情を消して、後ろを振り返る。
「豪炎寺?!」
よく知る人物だ。
豪炎寺は走ってきたらしく少し息を切らせている。
「お前、何してるんだ?」
思いもよらぬ場所で知り合いにあった驚きを悟られないように、慌てて言葉を続けた。
立ち止まる人の間をたくさんの人がぬけていく。
「花見だ」
そりゃそうだろ。
「お前の姿が見えたからな、走ってきた。」
「そうか」
一緒に見て回りたいってことなのか?
鬼道は真意が読み取れないでいた。
普段、豪炎寺は誰かとつるむということをよしとしないでいるように見えた。
だから、もし、こういう場で誰か知り合いに遭遇したとしても、あえて見つからないようにするものだとばかり思っていた。
なぜなら、自分がそうだからだ。
人と一緒にいることが苦ではないが、自分から誘うといった積極性があるかといったら、それはない。
豪炎寺が誘いの言葉をかけてくるわけでもないので、鬼道はとりあえず前進することにした。
歩調を合わせて豪炎寺も続く。
一緒に散策しているかのようだ。
そう思ったが、取立て会話もないので、あくまでも一人と一人だ。
そのぎこちない状態に耐えられなくなったのは、鬼道が先だった。
あえて豪炎寺の方を見る。
目があった。
さっきから見られていたらしい。
なぜ、だ?!と思い、気恥ずかしくなる。
が、すぐに、その理由に気づく。
これか。
「チョコバナナ、食べるか?」
手渡そうと思い、ついっと手を差し伸べた。
その手をつかまれる。
「おいっ!」
大きくかじられた。
「うまいな」
そういう問題じゃない。
手付かずだったチョコバナナは、割り箸の先端がのぞくほど食べられている。
「食べないのか?」
「食べる」
誰のだと思ってるんだ。
やさしさをみせた数分前の自分にバカといいたい。
鬼道がスピードをあげて、口に運んでいると、それを見て豪炎寺は肩を震わせて笑った。
「鬼道、お前、からかうとおもしろいな」
さっと、頬が朱に染まる。
「こっちはおもしろくない」
歩く早さを鬼道は上げたが、それに豪炎寺もついてくる。
変なやつ。
鬼道はそう思った。
試合中は、豪炎寺が何をしようとしていて、どうしたいのか、息をするよりも簡単に理解することができるのに。
今は何がしたいのか、さっぱりわからなかった。
ヒラヒラと桜が舞う。
「鬼道」
強い意思を持って呼び止められる。
「なんだ?!」
こっちは今、腹をたてている。
勢いをつけて振り返る。
それとほぼ同時に豪炎寺の親指が、鬼道の唇の端を強くぬぐった。
そのまま親指は豪炎寺の口元に運ばれて、ペロリと舐められた。
赤い舌がのぞく。
「チョコ、ついたままになってたぞ」
ニヤリと不敵に笑う。
「それくらい、口で言えばいいだろ!!」
怒りと羞恥が半分半分で、カーッと体温が上昇するのを鬼道は感じた。
変なやつ。
変なやつ。
変なやつ!!
本当に何考えてるんだ!こいつは!!
ゴーグルをつけたままなので、あまり意味はないかもしれないが、鬼道は豪炎寺の方をキッときつくにらんだ。
「あっ」
豪炎寺の髪の上に桜の花びらがついている。
怒っていたことを忘れ、とってやろうと鬼道はその手を伸ばした。
その不安定な体制で、背中に人がぶつかる。
「うわっ!!」
ぐらりと足元が崩れる。
そのまま大きく倒れこむことを予想していたが、そうはならず、鬼道は目の前の人物に抱きとめられていた。
心臓がひやっとした後に、急速に温度が戻ってくる。
安堵のため息を吐いた後、体を離す。
礼を言おうと、鬼道は豪炎寺の方をみた。
口の先まで出てきていた「ありがとう」が止まる。
いつもポーカーフェイスで、ぶれることの少ない豪炎寺だ、口元に手をあてて顔を真っ赤にしていた。
「おい、豪炎寺」
恐る恐るといった感じで、視線が鬼道のほうにくる。
「おまえ、なにっ……」
「急に鬼道が倒れてきたから、びっくりしただけだ」
言い終わることには、どこからみてもいつも通りの豪炎寺だった。
「そうだよな」
鬼道はそれでもさっきの豪炎寺の表情を思い出す。
あんな顔、始めてみた。
きっかけが何であったのかはよくわからないが、それでもあの表情は見ものだった。
「案外、お前もからかうと面白いのかもな」
鬼道は不敵にそういった。
さっきの原因を考えて、絶対にまた実行してやる。
「やられたら、やり返すぞ」
負けずとそう豪炎寺が言い返すので、互いになんだか面白くなってしまい、声を殺して笑った。
咲き誇る満開の桜は本当にきれいだ。
「一番向こうまで行くか」
「ああ」
そういって浮かんだ豪炎寺の笑顔はぬけるような空よりもすがすがしく、 思わず、鬼道もつられて笑いそうになったが、それはそれで気恥ずかしいので、桜を眺める振りをして前をみた。
縁日の先は長く、それがいまは、心の底から楽しいと思った。
----------------------------------------------------------------------
桜がきれいで、あぁ、鬼道さんにお花見させる話書きたいなぁ→帝国みんなでにぎやかなのもいいなぁ→でも、できれば、わりとしっとりした話がいいなぁ→こうなった。
どこで間違ったのか?!
でも、いまは、豪鬼のとりこです。
二人、かわいすぎんだろぉお!